あとがき
 
 今の世の中、生きやすくて生きやすくて仕方ない。そんな人を、私は絶対信用できない。
 そんな人がいたとしたら、それはものすごく鈍感か、ものすごい悪人か、もしくは7億円くらいの宝くじが当たったか、好きな人に告白してOK貰(もら)った直後かのどれかに決まってる。それ以外で「生きやすく」いられる要素など、残念ながらこの社会には、ほぼない。
 この本では、そんな中でも少し肩の力を抜いたり、「お前は黙ってろ」という圧力に抗(あらが)って、おかしいと思うことには「おかしい」と言葉にしたり、そんな実践を繰り返すことでちょっと生きやすくなっていった私の軌跡を描いたつもりだ。
 なんか、変だな。そう違和感を持った時、ちゃんと言葉にしないと、その思いは自分の中で発酵し、自分自身を腐らせる。いつしか卑屈になっていて、「おかしい」と声を上げる人の存在を憎(にく)く感じ、踏みにじりたくなってくる。自分が痛い思いをしているのに必死で我慢している時、「痛い」と口にする人が「甘えている」ように思えて、ふと傷つけたい衝動に駆られるように。
 そんなうっすらとした悪意がこの社会をずーっとループしていて、悪意は増幅し、爆発する瞬間を待っている。それが現在のこの国の、ありふれた景色なのだと思う。
 そういうのって、もうやだな。
 そんな思いで、今、このあとがきを書いている。

 さて、これからも私は、自分への期待値を限界まで下げ、段差のない場所で転ぶような躓(つまづ)きを繰り返し、くだらないことにうじうじと悩み、時々デモして酒を飲み、猫を愛(め)でながら、そして猫を真似(まね)て何よりも「昼寝」を大切に生きていく所存だ。
 あなたも適当にいろんなことをサボりつつ、面(おも)白(しろ)可笑(おか)しく日々を過ごしてほしいと思う。
 そんな余裕が、この世界を少しずつ、優しくしていくと思うから。

                          2016年8月     雨宮 処凛 

スペシャルサンクス
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