あとがき  
 

 いま、「社会保障改革」と「大震災・原発事故の復旧・復興」という2つの大きな問題が同時に議論されています。この2つの問題は、偶然重なりあったのでしょうか? そうではありません。同時に議論されることになったのは、国民を欺く形で社会保障の改悪を続けることに汲々とした政治の姿勢が社会保障改革の解決を長引かせ、そのさ中に大震災が発生したということです。国民が早々に納得できる形での社会保障改革を実現していれば、重なることにはならなかったのです。
  しかも、政府は、これを消費税率アップの千載一遇のチャンスとして利用しようとしています。

 日本の社会保障がヨーロッパに比し、大きく遅れているのは常識となっています。歴代の政府は、「財源がないから社会保障の充実はできない」として「社会保障充実のための消費税増税」を国民に押しつけてきました。しかし、その一方では、大企業・大資産家・高額所得者の蓄財強化にかたよった政策を進めてきました。その結果、国内景気が低迷し、現在の名目国内総生産(GDP)は1992年とほぼ同じ水準であり、20年近く経済規模の停滞が続いており、財政危機を深刻化させています。この責任は、構造改革路線を長期にわたり続けてきた自民党政権にあり、それを踏襲している民主党政権にもあるといえます。

 社会保障に対する政府の視点は、年金と医療にかたよったものであり、それも国民負担を増加させるという「採算」を重視した「保険」制度に変えてきており、所得の再分配を軸にしたナショナルミニマムを無視した政策です。また、社会政策の重要課題でもある住宅や教育に関しても個人が負担することを当然とする政策を続けてきています。
  とりわけ、住宅についてはヨーロッパ諸国の公営住宅建設重視という政策と異なり、ローンによる持ち家を奨励していますし、教育についても大学までの授業料無料化に学ばず、学校を採算本位の特殊法人化し、営利事業として位置づけることを当然と考えています。つまり、社会政策がヨーロッパなどの先進国と比べ、大きく劣っているということです。特に問題視しなければならないのは、憲法25条が規定している「最低生活の保障」を確かなものにしていないことです。
  本文で説明しましたが、儲けの「分配」が不平等であり、非正規雇用は拡大し、「最低賃金」や「生活保護給付水準」も国際的にみて、低い位置にあります。また、個人所得課税(所得税・住民税)の「課税最低限」も先進国中最低であり、生活保護基準に達しない低さになっています。そのことに対する政府の見解はなく、税財制に対する視点の弱さを露呈しています。
  具体的には、それら3つの要素(最低賃金、生活保護基準、課税最低限)はリンクしており、最低生活を保障する意味で同じ性質のものであり、その水準の不統一性と保障内容の格差の指摘に対しての弁明もなく、それどころか、低いほうに傾斜した引き下げを図ろうとし続けています。 

 菅前首相は「第三の開国」論で自民党の失政を厳しく指摘しました。それは、経済の底上げをせず、特定者への蓄積と弱肉強食化であり、それが日本をダメにした最大の要因であるという点でした。それを抜本的に「チェンジ」しない限り、日本の復旧も、復興も望めません。ところが、実際には「チェンジ」するどころか、むしろ推進させてきました。
  改革の出発点は「生活の保障が第一」です。社会保障のあり方も、東日本大震災の当面する復旧のあり方も「生活の保障が第一」との出発点は同じです。具体的には「職」と「住」など基本的な生活環境改善の保障であり、同時に職業訓練だけでなく、具体的な雇用に結びつけることと中小事業者の生業の安定を行政主体で図ることが必要です。

 法人税減税分についてはそれを国内投資・雇用拡大に充てることを「約束」すべきだとの意見に対し、財界は、「(日本は)社会主義ではないので、それを(約束として)掲げることはできない」と反論しています。大企業の減税要求は、その儲けの分配をはかり内需拡大に結びつけ、経済循環を好転させるためのものでなく、自分だけ儲ければ国民はどうなってもいいという身勝手な考え方なのです。そのような状態が続くことは日本を潰すことになることは必定です。日本をより豊かな国にするためには、分配の平等と再分配の公平を基礎として、経済、財政、税制そして最低生活を保障するための国民本位の社会政策をつくる以外に道はありません。

 本文で詳しく記しましたが、税負担については、究極的には社会保障を含めたところで応能負担、累進課税による税体系の整備、つまり直接税中心、総合課税、高度累進税率を法人税、所得税に取り入れることです。国民には分かりにくい租税特別措置などを廃止し、必要な措置は財政出動で行うことです。そうすれば、税金の取り方と、予算の使い方への透明性がいっそう高まります。それが「国民の生活第一」ということであり、「構造改革路線」という悪政からの「チェンジ」につながるものです。

 少なくとも消費税に頼る税制はその理念に反するものであり、廃止の方向で、直接税中心の税体系を作ることです。最低生活費非課税の原則と勤労所得軽課、不労所得重課の原則を守ることで、税収の安定化が図られ、「分配率」を高めることと合わせることで内需が拡大し、経済成長が図られるのです。

 政府はいま、消費税増税と所得税の課税最低限の大幅縮小(所得控除の改廃)、社会保障負担の増大(保険料アップ、自己負担増など)など庶民への負担増を前面に出しています。野田政権は、財界、大企業とタイアップし、保守政党の大連立を図ろうと躍起になっています。2011年度内には、消費税増税法案が出され、それを決めてから衆議院解散の運びになる可能性が大です。国民の総意に問うことなく、消費税増税を決めようとする政治方向に国民の関心は高まっています。大企業、大資産家、高額所得者の一人勝に加担し、その側に有利になる情報をあらゆる情報媒体を利用して国民を洗脳しようとしている翼賛体制化がさらに強められる情勢です。
「正しい情報」を国民に広める努力が多くの識者に求められています。その輪を広げ、真の「国民の生活第一」の政治を実現させることが、多くの国民の生活不安、中小事業者の経営難を救う道です。それなくして「日本の再生」、国際的に見ても「豊かな国」になる道はありません。

 原稿を書いている最中に財源問題に対する多くの問い合わせがありました。また、不公平税制の是正による財源試算方法について手法の勉強がしたいとの、専門家からの話もありました。
「本当に財源はないのか」との疑問が高まってきています。多くの方がそのような疑問を持ち、「財源」を探し出す意気込みが高まってきたことに、私は心強さを感じます。公表されている資料は年々少なくなっていますが、関心を持たれる方が増えることで、多角的に分析できることに、私は期待を膨らませています。

 前書『消費税によらない豊かな国ニッポンへの道』(2009年5月刊)では、あけび書房代表の久保則之氏には大変お世話になりました。今回も久保則之氏からかなり前から本書出版の提案を受けていました。ところが、政策が朝令暮改を繰り返していたこともあり、刻々と変化する情勢に対応するなかで適切な内容での出版の判断には困難を伴いました。しかしながら、実に丁寧に議論を積み上げながら、この時期に本書を発行することができました。久保氏に深く感謝いたします。
  また、多くの専門家による精緻な試算などの資料の知恵をいただいて、主張の裏付けができたことは幾重にも感謝し、先達の多大な成果に改めて深い敬意を表します。

        2011年10月2日       富山 泰一